音楽を聴いているとき、私たちはたいてい、どこかを“歩いている”。現実の道ではなく、心の中の風景を。それは知らない街だったり、かつて訪れた場所だったりする。

たとえば、The Smithsを流していると、なぜか曇ったロンドンの裏通りを思い出す。行ったことはないのに、だ。これは音楽が「仮想の地図」を作り出している証拠ではないだろうか。

地図には正解があるが、音楽の旅にはルートも答えもない。1曲聴くだけで、北欧の森を抜け、アメリカの砂漠を越えることもある。レコードやサブスクは、いわば“旅のチケット”なのだ。

だからこそ、知らない音楽に出会ったとき、私たちは少しだけ冒険している気分になる。誰かのプレイリストを覗いたり、古いCD屋で見つけた無名の1枚を買うのも、地図にない道を歩くことに似ている。

そして、自分だけの“音楽地図”がいつの間にか頭の中に描かれていく。ジャンルや年代ではなく、感覚や気分でつながる非論理的なネットワーク。それはSpotifyのレコメンドではたどり着けない、“自分だけの風景”だ。

音楽を聴くとは、知らない街を彷徨う旅だ。GPSをオフにして、イヤホンだけを頼りに歩く。そんな風に、地図のない旅をもう一度楽しんでみたい。

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